最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1378号 判決 1965年9月22日
上告人
富士林産工業株式会社
右代表者代表取締役
田路周一
右訴訟代理人弁護士
小林俊三
曾根信一
広瀬通
一松弘
被上告人
木曾官材市売協同組合
右代表者代表理事
中村治郎
右訴訟代理人弁護士
河辺久雄
岸星一
椎津盛一
野津務
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人広瀬通、同一松弘の上告理由第二点について。
株式会社の一定業務執行に関する内部的意思決定をする権限が取締役会に属する場合には、代表取締役は、取締役会の決議に従つて、株式会社を代表して右業務執行に関する法律行為をすることを要する。しかし、代表取締役は、株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であつて、ただ、相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限つて、無効である、と解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原判決の認定したところによれば、上告会社の代表取締役上原が本件物件を売却するには、重要事項として上告会社の取締役会の決議を経ることを要したにもかかわらず、右決議を経ていなかつたのであるが、買主である被上告組合が右決議を経ていなかつたことを知りまたは知り得べかりし事実は本件の全証拠によつても認められない、というのであり、原判決の右事実認定は、本件関係証拠に照らし首肯するに足り、右認定には所論のような違法はない。
所論は、判示と異なる見解のもとに原判決を論難するか、または原審の裁量に属する事実認定を非難するものであつて、採用できない。
同第三点について。
上告人が原審において所論の本件売買契約が通謀虚偽表示である旨の抗弁を提出していないことは、記録に徴して明らかであるから、所論は、原審において主張しなかつた事実をもつて、原判決に判断遺脱、理由不備の違法があるとするものであつて、採用するに由ない。
同第四点について。
中小企業等協同組合の業務執行に関する内部的意思決定は、法令、定款または規約をもつて、総会または総代会の権限とされているものを除いて、理事会の権限に属する。しかし、中小企業等協同組合は、理事会に属する右権限のうち、法令が特に理事会において決議すべき事項であると定めたものを除いては、定款をもつて、代表理事に委任することができる、と解するのが相当である。 これを本件についてみるに、原判文は、その措辞にやや足りないところがあり、不明確の嫌いがないわけではないが、その挙示の証拠を照合すれば、その趣旨とするところは、被上告組合の定款は、理事会に属する業務執行に関する内部的意思決定の権限のうち、法令または定款が特に理事会の決議事項であると定めたものを除いて、代表理事に委任しており、本件売買契約の締結についての内部的意思決定は、被上告組合の総会、総代会および理事会の決議事項ではないから、代表理事に委任された事項であり、従つて、本件売買契約は、被上告組合の理事会の決議を経ていないため、無効となるものではない、というにあるものと解されるから、原判決には所論の違法はない。
所論は、ひつきよう、判示と異なる見解のもとに原判決を論難し、かつ、原審の裁量に属する事実認定を非難するに帰し、採用できない。
なお、同第一点および上告代理人小林俊三、同曾根信一の上告理由第一点の論旨の理由がないことは、前記大法廷判決の判断したところである。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(横田正俊 石坂修一 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎)